社会的あるいは政治的メッセージに置き換えて理解するタイプの言説を好まない
しかしその前提の上で、Perfume 3rd TOUR『JPN』において披露されたパフォーマンス 通称「JPNスペシャル」は明らかに震災以降の世界を意識して構成された演目だったと捉えざるを得ない
そしてそこには、Perfumeというグループが、震災以降自分たちの在り方について深く思考した痕跡と、強い決心のもと導き出されたであろう答えが存在しているように思うのだ
それはどういうことか、順を追って見ていこう
サイドモニターに music by 中田ヤスタカ [capsule] の文字が浮かび上がり
この演目の為に書き下ろされたというスリリングなトラックが走り始める
同時に可変式のセンタースクリーンが巨大な三角形を形作り
映像作家 TAKCOM�(@takcomstudio)によるマッピング映像が
尋常ではない密度で展開される
onedotzeroをはじめ、世界数10カ国のアートフェスティバルで賞賛浴び
最近ではlivetune feat.初音ミク『Tell Your World』のMVを手がけたことでも知られる、気鋭のモーショングラフィックスデザイナーが紡ぐ映像世界
そこにグリーンの衣装に身を包んだ3人が映し出されるところから物語は始まる
スクリーンの中の3人がきわめてシリアスに、ひとつの設問を投げかける
「今 私たちに出来る事」
しかしそれはあまりにストレート過ぎる設問だ
2011年3月のあの日以来、飽きるほど耳にしてきた類いの言葉だ
多くの人はこう思うだろう「綺麗ごとは沢山だ」と
これはペシミズムではない
なぜなら、上から降ってくるタイプの綺麗な言葉が
実利的に何の意味も持たないという現実を
この1年足らずで我々は既に知ってしまったからだ
それなのに、いまさら何を言おうというのだ?
だが3人は予想外のものを差し出してきた
その設問に対する答えとして巨大スクリーンに映し出されたのは
大切な友であり、共闘者であるはずのメンバー同士が
暴力によってお互いを傷つけ合う、あまりにも悲しいシーンだった
どういうことか
つまり乱暴に言語化すれば
「今、私たちに出来る事は、仲間同士で傷つけ合う事です」
彼女達はそう宣言したのだ
これは、きわめて純度の高い皮肉だ
では、この皮肉が具体的に何へ向けられているのか
それに対する明確な答えは用意されていない
見る者それぞれの環境や立場によって想起するイメージは異なるだろう
安全厨/危険厨 原発推進/反対 瓦礫受け入れ賛成/反対
例えは何でも良い、重要なのは具体性ではない
あの日を境にして我々の間に引かれてしまった無数の「線」
そのあちらとこちらで、本来手を携えるべき者同士が
互いの言葉を疑い、恐れ、傷つけ合い、足を引っ張り合う光景を
我々日本人はこの1年、嫌というほど見てきた
それでもスクリーンの中の3人は戦いを止めない
止めてくれない
工業用3Dカメラで撮影された3人の身体は
真鍋大度(@daitomanabe)によって書かれたプログラム上で
無数のパーティクルに還元され、弾けて飛ぶ
繰り返し、繰り返し
内側に向けられた牙は友を傷つけ、同時に自らを傷つけ続ける
そしてその帰結として3人は目を、耳を、口を
つまり人間にとってきわめて重要なコミュニケーションの回路を
自らの手で覆い隠してしまう
これが何を示唆しているのか、説明の必要は無いだろう
まるで【ヤマアラシのジレンマ】だ
寒空の下、体を寄せ合いたいのに
近づけば近づくほど、自らのトゲで相手を傷つけてしまうヤマアラシの葛藤
ポリゴン状の鋭利なパーツを無数にあしらった衣装を纏う3人が
互いに傷つけ合わない距離を探り続けるヤマアラシの姿に
偶然にもどこか重なる
シークエンスは後半へと進む
リフトアップしていくステージの上に、映像の中の3人が1人ずつ現れ、そして集う
もう一度同じ言葉が響く「今、私たちに出来る事」
一度目のそれは皮肉だった
今度はその答えが示される
仲間に拳を向け、傷つけ合っていた3人は居ない
スクリーンには切っ先を180度変え、背中を合わせ
外へと視線を向ける3人のショットが映し出される
これが答えだ
そしてそれは、3人のファイティングポーズが
巨大なシルエットとして映し出されるあのラストシーンによって
さらに強調される事となる
「今、私たちに出来る事」という設問、これは別の言い方をすれば
Perfumeが自分たちの役割をどう捉えているか?という問いと同義だ
立ち止まって傷が癒えるのを待つのではなく
ましてや恐怖に怯えて互いを傷つけ合うことでもなく
Perfumeが選んだ答えは
仲間と共に、持てる力を内ではなく外へ向けること
そして、さらに過酷な戦いをあえて選択し続けることだった
Perfumeは自分たちの役割をそう捉えていたのだ
これは震災以降、自身のAlbumに『JPN』というタイトルを付け
長年所属していたレーベルから離れ
世界へと舞台を広げていく事に決めたPerfumeの実践的行動パターンと
完璧に一致する
その意味でJPNスペシャルとは、自分たちが大きく舵を切った理由を
我々に伝えるために書かれた、私信のようなものと言えるのかも知れない
曲が終わり、今度は聞きなれたイントロが響き渡る
3人が選択した攻撃的姿勢は【祈り】を経て、大量のレーザーに姿を変える
その光は観客の元へと届き、ひとりひとりに信を問いはじめる
爆音とレーザーの洪水の中、突き上げられた数千数万の拳は
そんな3人の思いを肯定し、共闘を誓った人々の決心の証だ
強靭な意志によって外へと向けられた3つの凶暴な光は
世界中で乱反射を繰り返し
真っ暗になってしまった私たちの足元を
きっと鮮やか照らすだろう
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